2025/10/01 15:38


1. はじめに


鎖に繋がれた農園で、黒人奴隷が歌った一節。
そのシンプルなメロディが、やがてブルースになり、ジャズになり、世界を動かすカルチャーへと広がっていった。


ブラックミュージックの歴史は、「生き抜くための歌」が「世界を変える歌」になるまでの物語です。







2. 起源:奴隷制度とスピリチュアル


黒人奴隷たちの労働歌から生まれた「ワークソング」、聖書をもとに歌われた「スピリチュアル」は、後のブルースやゴスペルの原型になりました。


単調なリズムに呼応するような掛け合い(コール&レスポンス)は、後のR&Bやヒップホップにまで受け継がれるスタイルです。


🎵 おすすめ曲

・《Swing Low, Sweet Chariot》

・《Nobody Knows the Trouble I’ve Seen》






3. 20世紀前半:ブルースとジャズの誕生


1900年代初頭、南部のデルタ地帯からブルースが広がります。
ミシシッピ・デルタのロバート・ジョンソンは「悪魔に魂を売ってギターを手に入れた」という伝説を残しました。


一方、ニューオリンズではジャズが誕生し、ルイ・アームストロングがトランペットで世界を魅了。
黒人音楽は「民族音楽」から「世界の芸術」へと歩みを進めます。


🎵 おすすめアルバム/楽曲

・ロバート・ジョンソン『King of the Delta Blues Singers』

・ルイ・アームストロング《What a Wonderful World》





4. ソウル&モータウンの時代(1950〜70年代)


1950年代、公民権運動と並走するようにソウルが広がりました。
サム・クック《A Change Is Gonna Come》は公民権運動の象徴的楽曲となり、アレサ・フランクリンは《Respect》で女性と黒人の誇りを高らかに歌いました。


また、この時代を語る上で欠かせないのが レイ・チャールズ です。
彼はゴスペルの情熱とR&Bのビートを融合させ、《What’d I Say》や『The Genius of Ray Charles』でソウルの基盤を築きました。
その革新性から「ソウルの父」と呼ばれ、以降のブラックミュージックの方向性を決定づける存在となったのです。


同時期にデトロイトから登場した「モータウン」は、黒人音楽をポップに磨き上げ、白人市場にも浸透させました。スティーヴィー・ワンダー、マーヴィン・ゲイ、ジャクソン5などがこの時代を代表します。


🎵 おすすめアルバム/楽曲

・レイ・チャールズ《What’d I Say》 / 『The Genius of Ray Charles』

・アレサ・フランクリン『I Never Loved a Man the Way I Love You』

・マーヴィン・ゲイ『What’s Going On』

・スティーヴィー・ワンダー『Songs in the Key of Life』

・サム・クック《A Change Is Gonna Come》






5. ファンクとディスコ(1970〜80年代)


1970年代、ジェームス・ブラウンが確立したファンクは、重低音のリズムとリフレインで体を揺らす音楽でした。
スライ&ザ・ファミリー・ストーンはファンクにサイケデリック要素を加え、ジョージ・クリントン率いるP-Funkは宇宙的なグルーヴを創出。


やがてディスコブームが訪れ、ダンスフロアはブラックミュージックの実験場となります。ドナ・サマーやシックがクラブ文化を牽引し、ニューヨークの「スタジオ54」は一大社交場となりました。


🎵 おすすめアルバム/楽曲

・スライ&ザ・ファミリー・ストーン『There’s a Riot Goin’ On』

・ドナ・サマー《I Feel Love》

・シック《Le Freak》

・ジェームス・ブラウン《Sex Machine》





6. ヒップホップとR&Bの台頭(1980〜90年代)


1970年代末のブロンクスで、DJクール・ハークらが始めたブレイクビーツが「ヒップホップ」の原点です。
ラップは「社会の不満を語る詩」として広がり、Public Enemyの《Fight the Power》は政治的メッセージを世界に轟かせました。


並行して、マイケル・ジャクソンやプリンスが登場し、ブラックミュージックはポップと融合。
マイケルの『Thriller』は世界史上最も売れたアルバムとなり、プリンスはジャンルを越えた存在感を示しました。


🎵 おすすめアルバム/楽曲

・Public Enemy『Fear of a Black Planet』

・プリンス『Purple Rain』

・TLC『CrazySexyCool』

・マイケル・ジャクソン『Thriller』







7. 現代のブラックミュージック(2000年代〜現在)


2000年代以降は、ビヨンセジェイ・Zが「世界的スーパースター」として君臨。
アッシャーアリシア・キーズらがR&Bを進化させました。


2010年代以降、ケンドリック・ラマー『To Pimp a Butterfly』がブラック・ライヴズ・マター運動とリンクし、音楽が再び社会を動かす存在に。
ドレイクやドージャ・キャットはストリーミング時代の新しいスター像を築いています。


🎵 おすすめアルバム/楽曲

・ビヨンセ『Lemonade』

・ジェイ・Z『The Blueprint』

・ドレイク『Scorpion』

・ケンドリック・ラマー『To Pimp a Butterfly』





8. ブラックミュージックが与えた世界的影響


エルヴィス・プレスリーのロックンロールも、ビートルズのロックも、源流を辿ればブルースやR&Bに行き着きます。
現代のポップスやK-POPもその影響を大きく受けており、ブラックミュージックは「世界音楽のDNA」といっても過言ではありません。




9. まとめ


ブラックミュージックは、苦しみの歴史から生まれながらも、世界を踊らせ、希望を歌い続けてきました。
まずは名盤の一枚を手に取り、音のルーツを辿ってみてください。
きっと「音楽が持つ力」の大きさを実感できるはずです。




出典


Nelson George, The Story of Motown

Craig Werner, A Change is Gonna Come: Music, Race & the Soul of America

Jeff Chang, Can’t Stop Won’t Stop: A History of the Hip-Hop Generation

洋楽ディスクガイド各種(ブルース/ソウル/ヒップホップ編)

・アーティスト公式ディスコグラフィー