2025/07/06 13:19

埼玉県川口市。閑静な住宅街の一角に、堂々と停まる一台のアメリカンバス。まるで映画のワンシーンのようなそのバスの奥に、こっそりと佇む古着屋があります。
店の名は「BUS STOP(バスストップ)」。
一見すると、気づかず通り過ぎてしまいそうな場所にあるこの店は、実は知る人ぞ知る“アメリカ古着の宝庫”。卸業として始まり、今や26年目を迎える“信頼と誠実さ”に満ちた老舗でもあります。
この店を営むのは、寺尾ご夫妻。20年以上アメリカと日本を往復しながら、家族で古着に向き合ってきた“生活と仕事が一体化した商売”を地で行く、筋金入りのオーナー夫婦。今回の取材では、そのお二人にじっくりと話を伺いました。
「特別なことはしていないよ」と語るおふたりですが、その言葉の裏には“続けてきた者にしか語れないリアル”がたっぷり詰まっていました。

BUS STOP基本情報
・店舗名:バスストップ(BUS STOP)
・住所:埼玉県川口市弥平2丁目9-15
・アクセス:川口元郷駅から徒歩約22分、バス停「弥平一丁目」から徒歩3分。車の方はお店の向かいと裏側にコインパーキングあり
・営業時間:
⚪︎平日:12:00〜18:30
⚪︎土曜日:11:30〜18:30
⚪︎日曜・祝日:11:00〜18:30
・定休日:不定休
・特徴:卸業出身ならではの本格アメリカ古着、ジャンルレスなセレクト、3世代・4世代にわたり愛され続ける地元密着型の店づくり、実物のバスが店の目印
・公式サイト:https://www.busstop-outlet.com/

アメリカとともに始まったBUS STOPの歴史
「アメリカには94年から。Tシャツの製造・販売をしてたの」
今では川口にどっしりと腰を据えるBUS STOPですが、そのルーツはアメリカにあります。1994年アメリカに住んでいた寺尾ご夫妻は、Tシャツを“Made in USA”で製造し、日本へ輸出するビジネスからすべてが始まりました。
「当時、ユニクロが勢いづいてた時代。価格競争が激しくて、中国製品がどんどん入ってきたんだよね。結局、会社は潰れちゃって……」
そんな逆風の中、現地での卸ルートを維持しながら、次第に“古着”の取り扱いへとシフト。そして2000年、アメリカで購入したバスを日本へ運び、まさに“バスとともに”帰国。川口で古着屋「BUS STOP」をスタートさせました。


「名前の由来?単純だよ。バスが止まってるから、“BUS STOP”。それだけ(笑)」
創業者ご夫婦がアメリカで築いてきたネットワークは、今も仕入れの基盤になっています。現地の業者とは、もう30年以上の付き合い。その信頼関係があるからこそ、時代や流行に左右されない“質のいい古着”を安定して仕入れることができるのです。
また、その間にご夫妻の子どもたちも自然と現地での買い付けに同行し、小学生のうちからバイヤー経験を積むことに。家族の暮らしと商売がアメリカとともに歩んできたことが、この店のルーツそのものになっているのです。
BUS STOPの歴史は、ビジネスとしてだけでなく、生き方として“古着と向き合ってきた”時間の積み重ねそのもの。だからこそ、このお店には深みがあるのです。

「こだわらない」というこだわり
BUS STOPの店内には、ジャンルに縛られないアイテムたちがずらりと並びます。Tシャツ、アバクロ、シーツ、キッズ、キャラもの。そこに“統一感”はありません。けれども、不思議と心地よく、見る人のテンションを確実に上げてくれます。



この「雑多さ」は、偶然ではありません。
「無理して買わないがうちのポリシー。業者から紹介されたものを買って、それをそのまま出す。それだけ。こだわってないようで、こだわってない(笑)」
この潔さが「BUS STOP」の魅力。
市場に流されて、ビンテージの希少品を高額で仕入れて、無理に売る……そんなことは一切しない。自然体のセレクトこそが、この店を特別な場所にしているのです。
「もちろんね、本当は“こういうのが欲しい”っていう気持ちはあるよ。でもそれにとらわれすぎると、結局、お客さんの顔が見えなくなる」
あるものを、いいものとして扱い、そのなかで見つけた「自分の好き」を大切にする。そこにBUS STOPらしさがにじんでいます。
実際、お客さんの中には「掘り出し物を見つける楽しさがここにはある」と話す人も多く、買い物というよりも“探検”や“発見”に近い体験ができるのが、このお店の醍醐味なのです。
「本当に、知らないバンドのTシャツとかあるの。でも、それを調べて来てくれるお客さんが多い。うちらより詳しいんじゃない?って思うくらい(笑)」
店主が“プロっぽくない”こと。それが逆に、BUS STOPという店の自由度を高めてくれているように感じました。

「倉庫で暮らしてるんだよ、私たち」
BUS STOPの特徴のひとつに、「生活とお店の境目がないこと」が挙げられます。ご夫妻が実際に暮らしているのは、店と同じ建物内。店内の裏側にはアイロン台、3階に洗濯スペースや乾燥部屋など、衣類のケアにまつわる“日常の風景”が広がっています。
「朝は5時起き。洗濯して、干して、アイロンかけて……それだけで数時間。でも、飲食に比べたら全然楽よ」と笑う奥様の姿には、長年続けてきた生活のリズムが自然ににじみます。
洗濯、乾燥は3階、商品整理は2階と1階。ビル全体がBUS STOPそのものであり、商品とともに生きているその様子は、まさに「古着と暮らす店」。ふとした瞬間に、生活音や洗濯機の回る音が聞こえてくるような距離感が、このお店の空気をつくっています。
そして驚くべきことに、この環境でお子さんたちも育ってきたのです。彼らも幼い頃から自然に古着に触れ、今ではバイヤーとしての役割も担うまでに成長。BUS STOPは、単なるお店ではなく、家族の生きた歴史が詰まった場所でもあるのです。
会員制という“優しさのかたち”
BUS STOPは現在、「会員制」という少しユニークな運営スタイルを取っています。初回・2回目の入店時には500円の入場料がかかるという仕組み。

「会員制にするのは全然悩まなかった。今日から会員制にする!って感じ(笑)本当に必要だった。こっちの心がすり減るばかりで」
取材中、ご夫妻は“心の余裕”について語ってくれました。BUS STOPは「無理しない」をモットーにしているお店。だからこそ、お客様との関係にも“無理をしない”スタンスを貫いています。
「冷やかしだけの人が毎日何十人も来たら、続かないのよ。ちゃんと買い物してくれるお客さんが安心して見られるようにしたかった」
この制度は、決して排他的なものではなく、お互いに気持ちよく過ごすためのもの。入場料はお店の継続に必要な仕組みであり、お客さんにとってもBUS STOPが“特別な場所”として機能するための小さなフィルターでもあるのです。
実際、今ではリピーターの大半が10年以上通う常連客。お客さんと店主が名前で呼び合うような距離感で、緩やかで温かい信頼関係が築かれています。
長く続く店だからこそ感じられる、お客さんとの世代を超えた絆
「子ども服を買いに来ていたお客さんが、大人になって自分の子どもを連れてまた来る。そんなことが日常的に起きるのよ」
BUS STOPの最大の強みは、“世代を超えた信頼”にあります。20年以上通うお客さんもいれば、親子三代・四代で通う常連さんもいるというのだから驚きです。


どれだけネットやSNSが発達しても、「対面で服を買う楽しさ」には特別な意味があります。会話のなかで好みを探りながら、“ピタッとハマる一枚”を見つけてもらう。その喜びが、BUS STOPにはあります。
そしてこれは、長く続けてきたからこそ得られた“お店の風格”でもあります。大きくしすぎず、背伸びせず、ちょうどいい規模で“人の目が届く範囲”に収める。そのスタイルこそが、BUS STOPの確かな魅力なのです。
フェスでもフリマでもない、接点はいつもバスストップで
近年、古着人気の高まりとともに、イベント出店やフリマ、オンライン販売を中心に据える古着店が急増しています。SNSで話題になるような「映える」マーケットも増えるなか、BUS STOPはあえてそうした動きから一歩距離を置いています。
「出店すればするほど疲れちゃうのよ。会場代はかかるし、場所によっては空振りもあるし……それよりも、うちはここでしっかり商売する方が合ってる」
派手さよりも、着実さ。利便性よりも、信頼関係。そんな考え方が、BUS STOPの店づくりの根底にあります。
もちろん、オンラインへの興味がまったくないわけではありません。実際に、ご夫婦の子どもたちがサイドビジネス的にネット販売を始める構想もあるそう。ただ、それでも「ベースはここ(実店舗)」という方針はブレません。
「店で買ってくれたお客さんの顔が見える。『ありがとう』って言える。やっぱりそれがいいよね」
古着の魅力は、単なる“モノ”の価値ではなく、出会いの体験そのもの。その体験をきちんと届けるための手段として、“リアル店舗”があるのです。
🏆BUS STOPの人気アイテムTOP5
バスストップで人気のアイテムを勝手にランキングしてみました!
1. NBAバスケットTシャツ

2. ミリタリージャケット(MA-1、M65など)

3. バンドTシャツ

4. キッズ向け古着

5. リメイクシーツトート&小物


お店を開け続ける理由──1日1回、良いことがあるから
取材の最後に、寺尾ご夫妻がぽつりとこぼした言葉がとても印象的でした。
「もう長いことやってるけどね、今でも毎日、お店を開ける意味があると思ってるの。1日1回はね、必ず“良いこと”があるのよ」
その“良いこと”とは、必ずしも大きな売上やイベントではありません。
お客さんとの何気ない会話、小さな笑顔、懐かしい再会。
そういった小さなできごとが積み重なって、今日もまたドアを開ける理由になるのです。
「“買ってくれて当たり前”なんて思わないよ。1枚でも1アイテムでも買ってくれたら、本当にありがたいと思う」
BUS STOPは、商品だけでなく、“感謝の気持ち”が店全体に染み込んでいるお店。
お客さんとのやりとりを、ただの販売で終わらせず、「来てくれてありがとう」「また来てね」を心から伝え合う空間だからこそ、20年以上という時間を超えて今も続いているのでしょう。

最後に──ふらっと来るにはちょっとだけ勇気がいる。でも、来たらきっと好きになる。
BUS STOPは、誰にでもウェルカムな店ではないかもしれません。けれども、だからこそ、来た人にとっては「大切な場所」になるのです。
「無理に来なくていい。でも、来てくれたら、きっと何か見つかるよ」
その言葉通り、この店には“探しに来た以上の何か”がある。服だけでなく、人との距離や、空気感や、暮らしそのものに触れられる場所です。
そして、寺尾ご夫妻の人柄そのものが、お店のすみずみにまでしっかりと息づいています。きっとあなたも、店を出るときにはこう思うはず。「また、来たいな」って。
さあ、川口に停まっているあのバスに、あなたも一度、乗ってみてください。


🚌 BUS STOP(バスストップ)
公式サイト:https://www.busstop-outlet.com
Instagramアカウントもぜひチェックして、営業日や入店方法などの詳細をご確認ください。
