2025/06/01 22:58
たとえば、夜中にふと目が覚めてしまったとき。胸の奥に言葉にできない痛みを感じたとき。
そんな時にいつも私が頼るのは、ジョン・レノンの声だ。「Imagine」のピアノの第一音を聴いた瞬間、心が解ける。いや、解けるというより、彼に“許される”感じがするのだ。
ジョン・レノンは、私にとってはただのアーティストではない。彼は「生き方」そのものだ。
ロックンロールを「哲学」に昇華させた男
彼の話をするためには、ビートルズについて詳しく語る必要があるだろう。しかし、ここではあえて詳しくは触れない。なぜなら、ジョンの魅力は「ポップスターの顔」だけでは到底語れないからだ。
1960年代、彼は世界で最も有名なバンドの中心人物であった。しかし、その栄光の中にあっても、彼は「本当の自分は誰なのか」と問い続けた。
「Help!」作成時のストーリーはあまりにも有名だが、この曲はただの軽快なポップソングではない。表面的には「誰か助けて」と歌っているが、これは名声と孤独の狭間で、自分自身を見失っていた男のSOSである。
成功の絶頂で「僕は助けが必要なんだ」と歌える男。それがジョン・レノンだった。
知られざる、彼の「人間らしさ」
数あるエピソードの中で、私が最も好きなジョンのエピソードがある。それは、1971年、アメリカのテレビ番組『The Mike Douglas Show』に1週間ゲスト出演したときのこと。
彼はなんと、ブラックパンサー党の代表ボビー・シールを番組に招いて、テレビで堂々とアメリカの人種問題を語らせたのだ。
これは前代未聞のことだった。当時のアメリカで、プライムタイムのテレビ番組に黒人解放運動の活動家を登場させるなんてことは、自殺行為に近い。スポンサーは冷や汗、視聴者の半分は怒り狂っただろう。でもジョンはそれを平然とやってのける。「ロックンロールはただの音楽じゃない。社会を変える手段だ」と本気で信じていたから。
同じ頃、彼はあるファンから送られた手紙を読んで感動し、その青年(名もなきアーティスト)を自宅に招いて数日間一緒に過ごしたという逸話もある。ファンと寝食を共にするスーパースターなんて、聞いたことがない。彼にとって「ファン」なんて存在はなく、「同じ時代を生きる同志」だったのではないだろうか。
オノ・ヨーコと築いた“もう一つの宇宙”
「ジョンはヨーコに狂わされた」──そんな言葉をよく耳にする。本当にそうだろうか。私はこうも考えられるのではないかと思う。ヨーコがいたからこそ、ジョンは“目を覚ました”のだ。彼はそれまで、男社会で育った、ある意味で旧来の価値観に囚われた英国人だったといえるかもしれない。しかしヨーコと出会ってからのジョンは、完全に「再構築」された。
ベッドイン・パフォーマンス、"War is Over (If You Want It)"、"Woman Is the N***** of the World"──その全てが、彼の中で何かが目覚めた証拠だ。愛は、彼にとって革命だった。ロックンロールを超えて、世界に対して「No」と言う手段となった。音楽が“兵器”になった瞬間だ。
「失踪」した5年間と、静かな再起
1975年から1980年までの約5年間、ジョン・レノンは完全に公の場から姿を消す。人々は「ヨーコに操られてる」とか「創作意欲が枯れた」と好き勝手言ったが、真実は違う。彼は「父親になる」という、最も静かで、最も革命的な選択をしたのだ。
彼は朝食を作り、息子のショーンを学校に送り迎えし、絵本を読み聞かせていた。その姿は、70年代のロックスター像からは大きくかけ離れていた。しかし、彼にとってはそれこそが“革命”だった。彼は人生の最期の5年間で「愛することの意味」を実践したのだ。
銃声に消えた歌声──でも、彼は今も“生きている”
1980年12月8日。あのニュースを覚えている人もいるだろう。私はその時まだ生まれていなかったが、映像で何度も観て、その度胸が痛くなる。あの理不尽な事件を、どう受け止めればいいのだろうか。
ひとつ言えることは、彼の死は終わりではないということ。実際、私がジョン・レノンを知ったのは、彼がこの世を去ってから何十年も経った後だった。彼の音楽、言葉、思想は、生き続けている。時代を超えて、場所を超えて、耳を傾ける人の心に届いてくる。
最後に──もしジョンが今も生きていたら
時々、想像する。もしジョンが2025年のこの世界に生きていたら、どんなことを語るだろう? SNSは? 戦争は? 差別は? 気候変動は? きっと彼は怒りながらも、ユーモアと詩で語りかけてくれたはずだ。そして、「想像してごらん」と、また優しく微笑んでくれただろう。
私はこれからも、彼の歌を聴き続ける。彼の言葉を引用し続ける。そして、彼のように「愛とユーモアで世界を変えられる」と信じ続けたい。ジョン・レノンは私にとって、ただのアーティストじゃない。人生の師であり、魂の友であり、永遠の革命家なのだ。
この記事が、あなたにとっても「ジョン・レノンを知る旅」の入り口になれば幸いです。音楽だけでなく、彼の生き方そのものに触れたとき、きっと世界の見え方が少しだけ変わるはず。
Imagine all the people… Living for today…
彼の願いは、今も私たちの中に息づいている。
【参考資料/出典】
Imagine: John Lennon(1988年ドキュメンタリー)
The Lives of John Lennon(Albert Goldman著)
Lennon Remembers(Jann S. Wennerとのインタビュー集)
All We Are Saying: The Last Major Interview with John Lennon and Yoko Ono(David Sheff著)
歌詞は全て、John Lennon / Yoko Onoおよび関連する公式出版物に基づき、内容の要約・引用を最小限に抑えて記載。